| ◆三島事件とは◆ 三島事件を知らぬ若きサムライのために |
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●バルコニィ前広場に集結した自衛隊員達の浴びせる罵声の集中砲火に三島氏は全くたじろぐこともなく、その語り口は激しくも11月の澄み切った青空の如く淡々としたものだった。● |
| バルコニィ上からの三島氏の演説は、檄文とほぼ同じ内容であるが、三島氏自らの肉声としてはそれが最期のものとなったことから、ここに再録することにより本稿の結びとしたい。 ◆演説 ……自民党というものはだ、自民党というものはだ、警察権力をもっていかなるデモも鎮圧できるという自信をもったからだ。 治安出動はいらなくなったんだ。 治安出動はいらなくなったんだ。 治安出動がいらなくなったので、すでに憲法改正が不可能になったのだ。 分かるかァ、この理屈が。(分らんぞ、何を言ってるの――ヤジ) 諸君は、去年の一〇・二一からあと、 諸君は、去年の一〇・二一からあとだ。もはや憲法を守る軍隊になってしまったんだ。 自衛隊がニ十年間、血と涙で待った憲法改正というものが、機会は無いんだよ。もうそれは政治的プログラムからはずされたんだ。ついに、はずされたんだ、それは。どうしてそれに気がついてくれなかったんだ。 去年の一〇・二一から一年間、俺は自衛隊が怒るのを待ってた。 もうこれで憲法改正のチャンスはない。自衛隊が国軍になる日はない。建軍の本義はない。 それを私は最もなげいていたんだ。 自衛隊にとって建軍の本義とは、なんだ。 日本を守ること。 日本を守ることとはなんだ。 日本を守ることとは、天皇を中心とする歴史と文化の伝統を守ることだ。 (ヤジ猛然としてくる。) おまえら聞けェッ、聞けェッ。 静かにせい。静かにせいッ。 静粛に聞けッ。 (騒然としたヤジで、演説聞きとりにくくなり、演説口調も興奮し切った感じになる) 男一匹が命をかけて諸君に訴えているんだぞ。 いいか。 いいか。 それがだ、いま、日本人がだ、ここでもって立ち上がらなければ、自衛隊が立ち上がらなければ、憲法改正というものがないんだよ。 諸君は永久にだね、ただ、アメリカの軍隊になってしまうんだぞ。 (バカヤローのヤジ) 諸君と…………(ヤジで聴取不能) …………アメリカからしか来ないんだ。 シビリアン・コントロールと……… シビリアン・コントロールがどこからくるんだ。シビリアン・コントロールというのはだな、シビリアン………(ヤジと演説口調が興奮しきって、このあたり、聴取が著しく困難になってくる) ………から…………れるのは、シビリアン・コントロールではないんだぞ。 …………(聴取不能) ………… ………… ………… それでだ、俺は四年待ったんだよ。俺は四年待ったんだ。 自衛隊が立ち上がる日を。 ……………(聴取不能) …………… …………四年待ったんだ。 最後の三十分間だ。 最後の三十分に……ため、今待ってんだよ。 (ヤジ、さらに激しくなってくる) 諸君は武士だろう。 諸君は武士だろう。武士ならば、自分を否定する憲法を、どうして守るんだ。 どうして自分の否定する憲法をだね、自分らを否定する憲法というものにペコペコするんだ。 これがある限り、諸君というものは、永久に救われんのだぞ。 (笑い声) 諸君は永久にだね、今の憲法は政治的謀略で、諸君が合憲ごとく装っているが、自衛隊は違憲なんだ。 自衛隊は違憲なんだ。 貴様たちは違憲だ。 憲法というものは、ついに自衛隊というものは、憲法を守る軍隊になったのだということに、どうして気がつかないんだ。 俺は、諸君がそれを完全に断つ日を、待ちに待っていたんだ。 諸君はそのなかでもただ小さい根性ばっかりに固まって、片足突っ込んで、本当に日本のために立ち上がるときはないんだ。 ……………… ……………… (「そのためにわれわれの仲間を傷つけたのは、どうした訳だ」のヤジ) 抵抗したからだ。 (「抵抗したとはなんだ」など、種々のヤジが次々に出る) 憲法のために、日本の骨なしにした憲法に従ってきた、ということを知らないんだな。 諸君のなかに、一人でも俺といっしょに起つ奴はいないのか。 一人もいないんだな。 (テメエ、それでも男かあ――とのヤジ) よし、武というものはだ、 刀というものはなんだ。 ……………… ……………… ……………… …………それでも、男かぁッ。 それでも武士かぁッ。 それでも武士かぁッ。 まだ諸君は憲法改正のために立ち上がらないということに、みきわめがついた。 これで、俺は自衛隊に対する夢はなくなったんだ。 (ヤジ猛然、「おりろ」「なんであんなものをのさばらせておくんだ」「おろせこんなもの」など。自衛隊の方で静めにかかる声も出る) それではここで、オレは、天皇陛下万歳を叫ぶ。 ……………… ……………… 天皇陛下、万歳。 引用文献■『週刊現代』増刊「三島由紀夫緊急特集号」 ---------------- 昭和45年(1970)12月12日---------------- フジテレビ報道局収録の録音テープから転写構成■サン企画 |
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