野村秋介と朝日新聞幹部、最期の対談
平成五年十月二十日、朝日本社十五階、役員応接室にて

午前十一時四十分頃、野村秋介氏は息子、野村勇介(18)氏と到着。先着の松本効三(「日本青年旭心団」副団長)氏、辻想一(「二十一世紀書院」編集長)氏、と合流。役員応接室へと向かう。

その日、応対した朝日側の出席者は中江利忠社長、橘弘道出版局長、穴吹史士「週間朝日」編集長、山本博昭読者広報室長、蒲宏樹同副室長、他一名の六名であった。

この日の会談では平成五年に野村氏が代表を務めていた「風の会」を「週間朝日」に連載の「山藤障二のブラック・アングル」で「虱(しらみ)の会」と揶揄した問題について、最終的な手打ちがおこなわれるはずであった。

「双方で出席者を紹介し、席に着きました。そして、最初に出版局長の橘さんから、『朝日新聞として今回のトラブルについて全面的にお詫びします』という発言があり、次いで穴吹編集長から『申し訳ありませんでした』との謝罪がありました。この二人の謝罪を引き継ぐかたちで、中江社長が『朝日を代表して、風の会の代表である野村さんはじめ風の会のみなさん、そして風の会を支援したみなさんに、深くお詫びします』と発言されました。

これに対して、野村さんは、「全面的に、百パーセント納得したわけではないが、朝日の誠意も感じた。その誠意に対して日本人として諒とする」という発言をしました」(辻想一氏)

この後、野村氏は「この席の雰囲気を含めて、今の結論をシンポジウムで報告して欲しい」と、松本氏と橘出版局長を全日空ホテルに送り出した。折から、同ホテルでは「二十一世紀書院」主催のシンポジウムが開催されていた。橘出版局長が、そこであらためて「お詫びの文」を読み上げる予定になっていた。

「あの日、松本さんと朝日の橘局長たちが退席した後は、野村さんが自分の持論を披瀝し、それを中江社長たち朝日側の人が聞くという懇談の場になった。淡々とした穏やかな雰囲気でした」(辻想一氏)

以下に紹介する対談は、その懇談から野村氏最期の瞬間までに至る約四十分間のやりとりを録音し、それを再現したものである。

朝日の措置は妥当じゃない

野村秋介(以後、野村)●竹下元総理が国会喚問で呼ばれたときに、「かかる事態を招いたことは、竹下登、万死に値する」と、こう言いましたよね。万死に値するということは、一万回死ぬことですよ。そうでしょう。いま、日本人の、魂なき繁栄というのは、何が一番いけないのか、何が一番欠けているのかというと、節義を全うするということです。万死に値するといったら死ぬべきですよ。せめて議員を辞退するくらいの覚悟がなくて、万死に値するなんて言われちゃ困る。しかし、それは一竹下だけの問題じゃなくて、戦後の日本が、いわゆるまやかしの平和主義を、皆さんも含めて唱えすぎたからなんだ。今回、朝日がとられた措置、それは山本さんに言わせれば、妥当なところだって言われるかもしれんけど、僕にはちっとも妥当じゃない。

山本広報室長(以後、山本)●いや、妥当と言うんじゃなくて、長い交渉があった末、お互いに納得できるところまで来たんじゃなかろうかというふうに私は思います。

野村●だから、納得というのは、あなた方が出来るんであって、尊敬の念をこそ持っておれ、決して敵対的な考えはないけれども、朝日という一つの機構にたいしては、これは安易に妥協できないな。

山本●出版局長は朝日新聞社の代表ですから、最終的にきょうシンポジウムに出てお詫びをするわけです。これは、まあ出版局長という名前だけれども、朝日を代表してということです。(中略)

野村●ここで僕はね、朝日が倒れるか野村秋介が倒れるか、ということを言っているわけです。僕自身は、朝日と刺しちがえる。これは朝日がそれだけ重責を担っているからなんですよ、マスコミの中でね。あなたが事務所に来たときに、「責任を感じますか」と訊いたら、「感じてる」って言いましたね。「深刻に感じていないでしょう」と言ったら、「深刻に感じてる」って言った。そうでしょう。その言葉がね、いま万死に値する罪なわけ。「じゃ腹を切れ」と言いましたよね。「私も腹を切ってやる」と。(中略)口舌の徒が百万回喋っても、人は聞かない。しかし、命をかけて戦えば、勝ち負けは別として、言葉は通ずる。僕は、そういう生き方をしてきた。そこで、朝日が倒れるか、野村秋介が倒れるか。朝日が倒れるわけないよな(笑)。野村秋介は倒れるとしても、朝日は倒れることはない。また、朝日は倒れてもらっては困る。朝日憎しで言うんじゃないんだ、朝日が社会の木鐸としてね、しっかりと日本を指導してもらいたいんだと。まあ、歴史はね、決して逆行しませんから、軍国主義なんて絶対に返ってこないですよ。軍国主義が返ってくるんだったら、丁髷時代も返ってくるの。万葉の時代だって返ってくるんですよ。それをね、あたかも日の丸を掲げると軍国主義が返ってくるような……、いま社長さんがちょっと言われたけどね。「靖国神社のことをどう思いますか」と言ったときにね。「権力が悪用することに関しては困る」と。権力が悪用するのはどういうことかというと、軍国主義に戻るということでしょう。僕は、それは絶対あり得ないんだと。歴史は逆行しない。 

山本●野村さんと(橘局長が)対談された記録を、まあ、あの中にも詳しく書いて……面白く読ませていただきました。勉強させてもらわなきゃいかんなということで……。
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