野村秋介と朝日新聞幹部、最期の対談
朝日と刺しちがえてやる

野村●山本さんね、僕はきょう、それほど甘いことで来たわけじゃないですよ。私は、朝日が倒れるか、野村秋介が倒れるかというんで……。命をかけてやりますよ。それはみんなに言った。だから、それを実行するために来たんです。さりとて、みなさんに危害を加えようと、そういう気持ちはないんです。

ここで野村氏は、羽織っていた和装コートを脱ぎ、作務衣の下から二丁の拳銃を取り出した。一、二分の間、緊迫した沈黙のときが流れた。

野村●さっき竹下の話をした。「万死に値する」と言ったら、その代わりに死ぬべきだと。命をかけると言ったら、命をかけるべきなんです。戦後ね、そういう風潮が……

このとき、突然、応接室のドアがノックされ朝日の社員が入ってきた。「辻さんにお電話です」と知らせた。

野村●いや、いい、いい、いいって!

野村氏は厳しい口調で制止し、社員を退席させた。両手の拳銃は、テーブル下の膝の上に移されていたため、社員は気づかなかった。

野村●そういう責任の取り方というものを、みんなしなくなった。世の中おかしくなった。じゃあ野村秋介が見せてあげる。朝日と刺しちがえてやる。しかし、社長さん、あなたはそれなりの誠意を示してくれたのでね。

一、二分の長い沈黙

野村●(同行の運転手に)お前よ、ちょっとあれ出してみな、祝儀袋。その祝儀袋はな、お前の結婚式に出てやることが出来ないから、いま渡しとく。それから、あれを出してくれ、封筒。それにちゃんと書いてある。持っててくれ。今後の会社の……。それから、もう一通は犬塚(博英)に渡して、粛然とフォーラムを終わらせてくれ。分かったな。勇介はお母さんを守れ。いままではお母さんがお前を守った。これからはお前がお母さんを守れ。俺は朝日と刺しちがえる。そうみんなと公約したんだから、公約を守る。……皇居はどちらになりますかね。

応接室に乾いた銃声が

朝日側の人間が振り向いた窓の方向に、野村氏は歩んだ

野村●(声を張り上げて)すめらみこと、いやさか!すめらみこと、いやさか!すめらみこと、いやさか!……。

俺の腹に日の丸が巻いてある。中台(一雄・大悲会会長)にやってくれ。男が節義を全うするというのは、こういうことだ!

山本●途中で申し訳ありませんが……。

野村●うるさい!命をかけている人間の前で俗っぽい話をするなよ。

その後、一瞬の間をおいて、野村氏は「ターッ!」という気合を入れ、腹部にあてた拳銃の引き金をひいた。パン……、パン!乾いた銃声が応接室にひびいた。かすかなう呻き声とともに、野村氏の上体が崩れおちた
「ちょっと医者を呼んで!医者を!」
「お父さん!」

銃声は二発だったが、野村氏の体に撃ち込まれた弾丸は三発。最初の銃声は、両手の拳銃を同時に発射したものだった。腹部を貫通した弾丸が背中から飛び出すのが、同席者に目撃されたという。午後零時三十七分のことであった。

「野村さんが拳銃を取り出したときには、こうなる予感は誰もが持ったと思います。でも、どうしようもなかった。一度、山本さんが声をかけましたが、あれが精一杯です。最後に野村さんが部屋の隅に移動したのは、他の人に流れ弾が当たらないようにという配慮でもあったと思います」(辻編集長)

『遺書』

犬塚君、そして、衛藤、若島、松田、阿形、山口、その他の同志諸君よ!さらばです。

私がここに到った経緯については『さらば群青』に書いてある。朝日は最後まで逃げた。ここまで来れば、民族派として、また、一日本男子として節義をまっとうする以外にない。また私の闘いの人生もこの辺が潮時だろう。

皆さんにくれぐれも宜しく、今回のフォーラムを最後まで粛然と進め、終らして下さい。さらばです。中村武彦先生に宜しくね。

惜別の銅鑼は濃霧の奥で鳴る
秋介

引用文献■『週間文春』平成六年一月十三日新春特別号
構成■サン企画
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